オカムラ歯科医院総院長 PTPシステム研究所所長 岡 村 興 一 |
「現世人類(Homo sapiens)」が出現してから、およそ20万年が経過したといわれています。この永い歴史の中で、われわれ人類の生活環境は著しく変化しました。しかし、変わったのは外在環境と外部からの身体干渉であって、人間の最も根本的Primitiveな生理構造は今も昔もほとんど変化していません。人間は身体感覚を通じて過去と密接に結びついています。そして、未来も・・・。近代化により、いわゆる文化的生活が享受できることになったことは大変価値あることだと思います。しかし、一方でそのことが品揃え豊富で、便利になった外部環境に何でも委ねてしまう考え方を横行させ、人間本来持っている自立的な判断能力や感性を鈍化させているのではないかと憂慮するわけです。不自然な人為環境による身体抑制や、大脳皮質への無批判な過剰情報流入などにより、われわれが本来持っている繊細で素朴な根本生理が混乱させられているとすれば、その根本生理を呼び覚まし、自己修正プログラムを発動させる必要があります。
当医院では、PTPシステム研究所の ①東洋医学(伝統)と西洋医学(科学) ②全身(総合)と口腔(断片) ③精神(波動)と肉体(粒子)の対比研究と、それに基づいた30年余の小児歯科から成人歯科、高齢者歯科、そして訪問歯科の臨床経験を通じ、人間の生育病老死の過程で不断にもちつづける自律的(自働性と自立性)根本生理である「発声」「呼吸」「咀嚼」「接触」「体動」の五つが、人間の生理の根底となっていることを確認し、そのすべてを包括統合して『生命理(イノチ)』という概念を提唱しています。そして、それは歯科口腔領域の疾病予防Active Prevention、疾病治療Effective Treatment、健康増進Health Promotionの各ステージにおける臨床理念Philosophyの背景となっています。
声に張りがない、息が浅い、噛む力が弱い、触れあいの欠如、体の動きの低下・・・などは現代社会が生んだ病的表出といえます。現代のさまざまな病的構造の根底に、五つの根本生理の誤ったプログラムがあると考えます。そしてそれはすべて口腔の生理と密接に関係しています。Oral Cosmology
口腔からの健康・美容・長寿戦略、そして、自律的根本生理へのアプローチ・・・、皆様の人生におけるQOL(生活の質)の向上にどれだけ貢献できるかが、われわれの医療戦略Strategyとなります。そして、“口腔のケアから全身のケア、そして、人生のケアへ”Human Oral Health Careを使命Missionとし、より良い医療サービスの提供に努力したいと思います。
『健康と幸福は、毎日の生活で出会う挑戦に対して反応し、さらに適応する個人的態度の現れである。そして、生物学的な成功を収めうるか否かは、適合性の尺度で決まる。そうして適合性を得るためには、変化し続ける環境の全体に対する、たゆまざる適応努力がいるわけである。』
「人間と適応」ルネ・デュボス (仏:生物学者)
『ひとたびあの歯の痛みを味わい、抜歯の時の生命的侵襲を経験すれば、この口の中の感覚がいかに底の深いものであるかを思い知らされることになろう。それは、この感覚が「内臓系」であるからに他ならない。わたし達は、味に関わる口から喉に掛けての領域が魚の鰓腸に相当する部分であり、さらに、ここが内臓系を代表する腸管の前端露出部であることを知らされた。しかもわたし達の遠い祖先の体のほとんどはこの鰓の部分だけでつくられていたのだという。まさにこの領域が、命の要に位していたのである。』
「生命形態の自然史Ⅰ」三木成夫 (日:解剖学者)
『異なる思想の流れが出逢うところ、人間の思想上最も実りの多い発展がある。その流れは種々な人類文化に起源をもち、時代や文化状況・宗教の伝統なども異なっている。しかしそれらが一度出逢えば、あるいは少なくとも互いに作用し合うほど双方の関連が強まれば、そこにまったく新たな極めて興味深い発展が起こることはまず間違いないと言ってよい。』
ヴェルナー・ハイゼルベルグ (独:理論物理学者)